「経営トップの技術戦略と知財戦略」(星雲社)を読みました。
企業における、経営、技術、知財の関係性であったり、さらに、特許情報の分析まで、知財部員が知るべき基本的要素が盛り込まれ、分かりやすく説明されています。
若手の知財部員は読むべき本だと思います。
技術開発をしていても、低収益、あるいは、増収減益になる要因
「要約」
低収益になる3つの要因
①キラー技術がない。独自性のない技術で事業を継続
②知財がない。事業が模倣される
③社員が意見を言わない。保守的な専門家で、新しいことを嫌う
・顧客要望対応で減益になる理由
①同質化する。顧客が教える要望だから、秘密ではない。他業者にも教えている。同じ商品が出回る
②投資に費やせる時間が無くなる。対応で社員が忙しくなる。新テーマに時間が割けない
③投資の原資が生まれない。増収減益となる
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「感想」
顧客要望対応の方はよく分かります。
以前、商品開発をしていたとき、よく顧客要望を聞いて商品に反映していました。
そのような対応をしていると、なかなか特許を生むことは難しくなります。
仮に特許権を取ろうと思って出願しようと思っても、顧客との契約上、その特許権すら顧客のものになってしまいます。
よくいう顧客第一と、顧客要望対応とは、切り分けて考える必要があります。
高収益を実現する仕組み
「要約」
・高収益の原理原則
①競争戦略(マイケルポーター)。競争優位、差異化、コストリーダシップ
②知財の質
・高収益を実現する仕組み
①独自性を実現する仕組み。顧客の潜在課題を解決する技術戦略
②知財面の仕組み。先が見通しづらい独自テーマに投資
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「感想」
企業の戦略と同レベルで、知財戦略が重要になる、と。
そもそも、知財戦略は企業の戦略と一体であると思います。
開発した技術を適切に知財で保護しなければいけないですし、知財が取れないような技術は開発すべきではありません。
知財の取り方も、より強い権利に仕上げることが、知財部の腕の見せ所となります。
顧客の本質的ニーズにせまる意識
「要約」
①顧客には自分の欲しいものが分からない
②本質的ニーズは、顧客に変わって我々が先取りするもの
③本質的ニーズを発掘するために、顧客の潜在課題に鋭敏になろう
※潜在課題は、顧客が気づいていない将来の課題や現在の非効率
・テーマ段階で独自性を検証
知財情報を使う。特許マップを使ったり、先行文献を読む。
・コンセプトの段階で特許出願する
構想設計の段階。事業は必ず模倣されると想定して準備すべき
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「感想」
顧客に聞いてもニーズはつかめないと、よく言いますよね。
自分が顧客になりきったり、現場に密着し観察したりして、やっとニーズを発掘できると。
ニーズを仮説としてでも設定できたら、次は、知財の出番です。
そのニーズは本当に新しいのか、他社はまだ気づいていないのか、特許情報を用いて分析し検証ができます。
その結果まだ特許がなければ、自社が独占できる余地があるとなります。
(まとめ)自社の技術開発や知財戦略は、利益につながっているのか
私が知財部に異動してすぐに、著者である中村大介さんのセミナーを受けに行ったことがありました。
そのセミナーでは、知財権がなぜ企業に必要なのか、どんな技術開発をすれば企業が儲かるのか、基本的なところを教わりました。
本書は、その中村大介さんが書かれたということで、読ませていただきました。
セミナーと同様、経営、技術、知財の関係性であったり、さらに、特許情報の分析まで、知財部員が知るべき基本的要素が盛り込まれています。
自社と比較して、自社の技術開発や知財戦略は本当に企業の利益につながっているのかを、考えるきっかけになると思います。
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