『IPランドスケープの実践事例集』(技術情報協会)について、昨日の投稿に続いて、今回も知財ランドスケープ山内さんの記された分析事例を紹介します。
ベンチャー企業に出資することは、昨今VCなどで検討されていると思います。
その際に特許情報をどのように活用するのか、その分析観点として勉強になります。
ベンチャー出資/資金調達検討へのIPランドスケープの活用
「要約」
2009年ごろのリチウムイオン電池のベンチャーA社への出資判断目的で実施。
出資に値するかを検討したものだが、出資される側にとっては保有知財をいかにアピールするかの参考になる。
(ステップ1)母集団の規定
1-1 ベンチャーA社の名義の特許出願全体について、FIxFタームでマップ化。
「薄型電池を積層した集合電池、EV向けリチウムイオン電池」への注力を確認。
1-2 その特徴技術について、他社含めた母集団を作成。
(ステップ2)マクロ分析[ポジション把握]
2-1 非特許情報より、A社は日産自動車の技術開発元と目されている。
その日産自動車は、NEC、NECトーキンと合弁会社を設立済み。
2-2 ステップ1で作成した母集団で出願人ランキングを見ると、A社のほかに、日産自動車、NEC、NECトーキンのランクインを確認
(ステップ3)セミマクロ~セミミクロ分析[テーマ設定]
3-1 ステップ1で作成した母集団で FIxFタームでマップを作成し、 A社とその他企業で比較。
薄型電池や積層構造でA社の比率が大。特徴分野と窺える。
3-2 日産自動車とのポートフォリオ対比マップ(Fターム)では、両社のポートフォリオが類似。
偶然にしては不自然。A社は日産自動車の技術開発元と目されていることから、共同研究と仮説できる。
3-3 A社の共願先を確認すると、日産自動車が多い。
3-4 出願時系列マップ(Fターム)でA社と日産自動車を比較する。
出願時期が重複。A社出願の初期から共願されている。
以上より、A社の成果を日産自動車と共願されていることが検証された。
また、知名度の低かった頃からすでに共願され、技術力が高く評価されていた。
日産自動車としては単願にしたかったはずであり、A社が技術力で勝っていたと目される。
このA社の技術力の高さを検証出来れば、A社への出資判断の好材料となる。
3-5 A社技術に関する非特許情報をグーグル検索
(1)日産自動車リーフに積層型電池が採用
A社は日産自動車と競願しており、リーフ搭載技術はA社のものと推認。
(2)積層型の先駆者は三菱電線
特許情報より三菱電線の権利は抹消されており、開発は中止したと言える。
三菱商事と三菱自動車がGSユアサと合弁会社を設立。
これらより、三菱グループは三菱電線の電池採用を試みたが失敗したといえる。
つまり、三菱グループでさえ実現できなかった技術を、A社がブレークスルーを実現した。
(1)(2)より、A社の技術力の高さを証明できた。
(ステップ4)ミクロ分析[テーマ深堀]
ステップ3では日産自動車との関係から検証したが、ここではNECグループとの関係で検証。
4-1 NEC、NECトーキンとのポートフォリオ対比(Fターム)
A社とNECグループは類似している。ただし共願しておらず、日産自動車とは別の理由があるとみる。
4-2 両社の時系列推移(Fターム)を確認
(1)NECグループの方がA社より先行して出願
ただし、出願内容を確認すると、円筒型でありA社技術とは異なる。先行とは言えない。
(2)NECグループは安全、品質面が多い
4-3 NECグループの出願内容を確認
積層型は2000年からであり、従前の円筒から切り替えた。
これはA社と同じ時期であり、A社がNECを指導していたといえる。
(まとめ)
・A社は、日産自動車と当初より協働関係、さらにNECグループとも協働関係を築いている。
一般論として安全性信頼性の面でベンチャ技術は採用されにくい自動車業界において、A社の技術力の高さが検証された。
・守りの観点では、先行する三菱電線の特許はない。
また協働関係である日産自動車やNECグループが、先行技術は入念に調べているはずであり、リスクはない。
・よって、A社への出資判断における好材料が検証された。
(感想)ベンチャーの技術力の高さ、リスクの有無の検証に活用可能
・A社の技術力の高さを見るのに特許情報を使うとき、具体的に何をどの様に調べればよいのか、勉強になりました。
例えば、非特許情報より提携していると目される企業と特許ポートフォリオで比較すること。
あるいは、その技術で先行している企業の事業状況を調べること。など
・さらには、技術力が高いことが分かっても、侵害リスクも注意が必要です。
その点についても、協働関係にある大手企業が侵害調査を入念に行っているはずと言えることは、勉強になりました。
・仮にベンチャー企業自体の特許が少なかったとしても、共願先の企業やその技術で見たときの先行企業など、いろんな観点で調べることができると、分かりました。
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