技術シーズでビジネスに勝つには、知財専門職のスキルとマインドの変革を

Apricot.M (企業内弁理士)です。
弁理士会の発行する月刊誌パテント(2021年6月号)に掲載された、「研究開発型企業のための知的財産保護」(酒井將行著)を読みました。
新しい要素技術を生み、それをビジネスに生かすために、知財保護の考え方やさらには知財専門職への提言が示されています。

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人工知能を利用した音声認識技術の、知財保護の対象箇所とその意義

「要約」
①ベンチャー企業の起業を考えれば、「学習モデルの構造」の特許は、VCからの資金調達のために有意義
技術のトレンドとしては、ディープラーニングが発展し、相対的にその重要度は下がっている
③クラウドでの処理が主要となった今、サービス自体は無料となりライセンス実務の変更も必要
④むしろ「雑音除去」や「音声データベース」などは現在でも使用されている

以上の点は、「人工知能技術」に関する知的財産の考え方の方向性を示す。
①「学習モデルの構造」は技術の進展が速いため、他社の開発した異なる技術に置き換わる部分である。そのため、ビジネス保護の観点で有効に機能し続けることは期待できない。
②むしろ「人工知能技術」にとって、息の長い知的財産は以下のもの
a)学習用データ:人口知能の性能評価にも使用可能
b)前処理の技術:雑音除去に相当。学習モデルの使用フェーズでも使用され、侵害の摘発性の観点から意義あり

・・・・・
「感想」
人工知能技術での知的財産の対象が、学習用データと前処理というのは、なるほどなと思いました。
このうち、学習用データは、それ自体は特許にならないので著作権や契約で守るところだと思います。

前処理の技術は、侵害の摘発性の観点は大事ですね。そもそも、他社が侵害しているかどうかわからないなら出願する意義もないのでは、となります。
その中で、ちゃんと侵害を摘発できるということは、権利を行使できるということなので、出願の費用をかける意義があるとなります。

人工知能技術は、突き詰めるとソフトウェア技術なので、特許の取りどころが結構難しいです。そこをきれいに整理されていて勉強になりました。

技術シーズを実用化するための体制や人材への提言

「要約」
①基礎的な研究を見て、それを製品やサービスの姿として想像するために、それを見る側に一定以上の科学的・技術的な素養が必要
②米国のようなエンジェル投資家、クラウドファウンディングなど資金供給が必要だが、必ずしも十分とは言えない
③基礎技術により事業を起こそう、という起業家マインドの人材の絶対数が足りない
④事業化への資金の提供側で、技術の価値を評価する観点が弱い。ベンチャーM&Aのエコシステムが十分機能していない。
⑤知財、法律など高度な知識と経験を必要とするサービスにおいて、それをベンチャーに提供できる人材が圧倒的に不足

・・・・・
「感想」
我々弁理士に直結するところは⑤ですね。
ベンチャーというと、これからビジネスが立ち上がる状況であり、かつ、知財に関する仕組みがありません。
私は企業知財部にいますが、それとは正反対です。既存のビジネスがあり、知財の体制も出来上がっています。
つまり、正直いって、企業知財部で業務経験を積んでも、ベンチャーにサービス提供できる能力が身につくとは思えません。
やはり、経験うんぬん以前に、ベンチャーに飛び込んでやり抜くというマインドが必要だと思いました。
これは③にも通じることですね。知財部員としても新しい事業を起こそうというマインドが大事だなと。

(まとめ)知財専門職の業務の拡大が求められる

この論文の著者の酒井將行さんについて、以前知財関係のセミナー講師をされており、それに参加したことがありました。
知財初心者の方に分かりやすく、出願クレームの書き方を講義されていました。
そこから、この論文を読んでみようと思いました。

また、私が勤めている会社もまさにここで取り上げているような、研究開発型企業です。
よって、ぜひその知財保護の仕方を勉強したいと思って読みました。

読んだ結果、特に人工知能技術についての、用いられる技術の整理と知財の意義について、とても勉強になりました。
ただ、ここで紹介されたことを実務に生かすには、自社のビジネスやそこでの技術の使われ方、さらには将来の技術の変遷を考えなければいけません。
知財部員の仕事の幅を、ますます広げなければいけなと感じました。

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