日立の知財戦略を紹介。顧客とのWinWinな知財契約には、抜かりない計算あり。

日立製作所の知財戦略に関する寄稿がありましたので紹介します。
同社は多くの事業を持つが故、事業の性質に合わせて知財戦略も変えています。
特にソリューション事業において、データや契約を含めた考え方が勉強になりました。

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事業はプロダクト事業とデジタルソリューション事業に分かれる

「要約」
日立製作所の注力する社会イノベーション事業は大きくは、プロダクト事業とデジタルソリューション事業に分かれる。

・プロダクト事業
鉄道車両、エレベータ、産業機器など広範な製品群。
技術的に優れた機器やシステムを顧客(BtoBが中心)に提供。

・デジタルソリューション事業
日立には、現場を動かす制御技術とデータの分析・活用技術を駆使し、社会・企業インフラへのソリューション実績がある。
このユースケースを汎用的に使えるよう、ひな形化しデジタルソリューションを迅速実現するIoTプラットフォームLumadaを開発。

プロダクト事業では「競争」戦略をとる

「要約」
・事業戦略に基づいて競合企業を特定し、知財・非知財情報も加味して知財ベンチマークを行う。
グローバルに事業展開している場合、グローバルトップとの調査は重要。
自社の強み弱みを見極めて、研究部門、事業部門と情報をシェアする。

・5フォース(マイケル・ポーター)の観点を用いる。
競合のみ考えればよいのか、売り手・買い手の交渉力がどう影響しているか(調達品の知財責任はだれが負うか)、有力知財を保有するスタートアップなどの新規参入や代替品の脅威はないか等

・知財活動としての目標設定 
ポートフォリオの件数設定、出口として知財活用の仕方(他社の市場排除、HPに掲載、受注資料にアピール)、それをいつまでに構築するかなどを設定。
その活動の進捗を、年1回の事業部と知財部の幹部がそろう知財戦略会議で審議。

・・・・・
「感想」
こちらは従来型の知財戦略ですね。
自社のプロダクトを見たときの競合企業を具体的に設定して、参入障壁としての特許網を構築する、と。

ただそのとき、決して自社の実施するプロダクトだけを考えるのではないですね。
5フォースの観点で、その事業をする上でのプレーヤを広く想定して、色んな脅威を考えると。

そうして考えた知財活動を事業部の幹部と整合するという意味では、IPランドスケープに相当すると思います。

デジタルソリューション事業では「協創」戦略をとる

「要約」
知財の概念を特許権などの知財権・著作権や営業秘密に限らず、情報・データといった情報財にも広げる。
役割も、パートナシップ促進、エコシステム構築にシフト。

知財活動も、コア技術の知財確保のみならず、ビジネスモデルや契約の設計、パートナシップのための知財活用とする。 
そして、顧客へのソリューションで生まれたデータや知財について、その扱いは客と柔軟に取り決める。
例えば契約において、横展開できるよう利用権は確保する。

・・・・・
「感想」
こちらは新しい知財活動ですね。
顧客にソリューションを提供するという時系列の中で、柔軟に知財活動を行っていく、と。

もちろんコア技術は事前に権利化しておいて、それ以降ソリューションで生まれた知財権(データ含む)は柔軟に考えると。
柔軟とはいえ、しっかり自社が他の事業に活用できるように、権利者は契約の中で取り決めるところが抜かりないですね。

考え方として、まず顧客においてどんなステップで価値を提供するのか、次に自社事業はどんな活動でどんな技術を用いるのか、そして広義の知財に関するものは何が大事なのか、という順番だと思います。

(まとめ) モノからサービスへと移行する中で活用できるフレーム

こちらの寄稿は、『IPランドスケープの実践事例集』(技術情報協会)から、日立製作所の知的財産本部長 戸田裕二さんによるものです。
いろんな所で講演などされていると思いますが、改めて整理してみました。

日立ともなると、事業が多くそれぞれで強みが異なるので、それに合わせて知財活動を「競争」「協創」で分けているということですね。
あえて響きを同じにしているところが、センスでしょうか。

協創戦略の考え方は勉強になります。
昨今、モノからサービスへと移行する中で、知財の抑えどころを明らかにするために、活用できるフレームだと思います。

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