AI関連発明の類型と権利行使の可能性。事業と知財と一体で権利行使を考えるべき。

弁理士会の冊子「パテント Vol.74」から、「AI 関連発明の類型と権利行使の可能性」を読みました。
AI発明の類型が大変きれいに整理しており、かなり理解につながりました。
またどういった場合であれば権利行使が可能かがわかります。
これにより今後の権利の取り方や、さらには自社商品へ搭載する機能に対する示唆となると思います。

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AI 関連発明の7つの類型

「要約」

(1)AIを単なる手段として適用した発明

AI を使って実現するなら普通こうなりそう、というような特許。
引例がなければ特許になる。

例 特許6638121(作物生育ステージ判定システム)
作物の画像情報から作物の育成ステージを判定するもの。
前段:作物の画像情報とその育成ステージを教師データとして、学習済みモデルを作成する
後段:未知の画像情報から学習済みモデルを使って、育成ステージを判定出力する
農家の人が日常的に行っていることじゃないかと思われる。

(2)AI の処理が発明全体の一部

AI を用いたことよりも、むしろ AI 以外の構成要素が特許性に寄与した発明。
AI だからこそ実現可能になる処理(画像の分類等)もある。

例 特許6680936(生コンクリートの品質予測方法)
生コンクリートの材料を混ぜ合わせている時の映像と、出来上がる生コンクリートの品質との関係を学習した学習済みモデルを用いて、生コンクリートの材料の撮影の画像から品質を予測する発明。
特徴:連続的な複数の画像から品質に関するデータを得て、その移動平均値を使うこと

(3)入力データに特徴がある

新しい発想に基づいて新しい入力データを用いる発明と、
既知のパラメーターであるがその組み合わせが知られていなかった発明がある。

例 特許6692960(調理支援システム)
調理者によりカットされた食材片のサイズを特定する。
食材片のサイズを入力として、機械学習により生成された推定モデルを用いて、食材片の最適な加熱調理時間を推定する。
特徴:これまでに食材片のサイズに着目した技術がなく、それを入力として用いるところ

(4)出力データに特徴がある

これまでに知られていなかったような切り口での出力を得る発明。
出力データに特徴がある場合も出力データに合わせて教師データを変更することから、教師データの変更の一態様と考える。

例:特許6632020(内視鏡画像処理システム)
内視鏡による撮像された内視鏡画像を取得し、学習済みモデルに対して内視鏡画像を与える。
撮像した内視鏡の位置及び方向を示す位置情報や向き情報を取得する。
特徴:内視鏡操作の手技の習得に着目した位置や向きを取得させることが新しい

(5)入力データの前処理に特徴

教師データに対して前処理を行うもの

例 特許6807092(点検システム)
ドローンにより撮影されたコンクリート護岸の撮影対象を取得する。
ひび割れ学習モデルを適用して、ひび割れを検出する。
特徴:コンクリート護岸の上方は波が当たりにくく、ひび割れが発生しにくいという事情がある。そこで、ひび割れ検出を精度を上げるため、護岸上方を対象外とする前処理を行う

(6)モデルの形に特徴

対象に応じて複数のモデルを使い分ける発明や、
複数のモデルの推論結果を統合的に判断する発明。

例 特許6757010(動作評価方法)
トレーニング動作を評価する方法であって、
機械学習によって生成された検出モデルのうちトレーニング動作の種別に応じた検出モデルを用いる
例えば、「手のひらを洗う」や「手の甲を洗う」といった動作ごとに検出モデル用意している。
特徴:部分動画を検出するために、種別に応じた複数の検出モデルを用いること

(7)教師データの作り方に特徴

ラベル付けの仕方や、教師データの水増しに特徴を有する

例 特許6651668(メール解析サーバ)
蓄積された受信メールと送信メールを対比し、送信メールの本文に受信メールの本文の一部を含むか否かを判定する。
含む場合、受信メールが返信されたと判定する。
特徴:判定によって返信の有無を推定し、メールにラベルを付けるところ

類型それぞれにおける権利行使の可能性

「要約」

権利行使をする際には、構成要件該当性を説明できる程度に被疑侵害品の構成を特定しなければならない。
外部から知り得ない構成要件がある場合には、特許権侵害を主張立証できる可能性は低い。
逆に外部から知り得る構成要件だけからなる特許の場合には、権利行使できる可能性は高い。

AI 関連発明の場合、そもそも被疑侵害品が AI を使っていることは外部から知りえるだろうか。
フリー株式会社vs株式会社マネーフォワードの事件(東京地裁平成28年(ワ)第35763号)を参考にする。
この裁判例は機械学習を用いてと主張した。外部から観察できる動きから、内部処理として AI を使っていることが分かる可能性があると示している。

(1)AI を単なる手段として適用した発明

・作物生育ステージ判定システム
画像を使って生育ステージ判定していれば、AIを使う以外の手法は考えにくく、AIを使っていると言える可能性がある。

・生コンクリートの品質予測方法
予測用出力データを用いて予測したものか、その平均移動値を用いて予測したものか峻別することは無理。

(2)AI の適用の仕方に特徴がある発明

・調理支援システム
加熱調理時間と食材編のサイズに相関があることを示すような証拠が必要。

・内視鏡画像処理システム
内視鏡画像から内視鏡の位置と方向の情報を出力して入れば、構成要件を充足する可能性がある。
出力をユーザーの研修に対して示すという、新たな切り口でシステムを提供するものである。
同じことをやろうとして宇佐美るシステムに対して権利行使できる可能性は高い。

・点検システム
システム内部において、検索対象外範囲を設定してるかどうかを知ることは困難である。

(3)モデルの形に特徴がある発明

・動作評価方法
実施の形態に記載されているように、ユーザーに動作の種別を選択するインターフェースを備えていれば、種別ごとに検出モデルを使い分けている可能性がある。
しかし、この場合も選択されたデータを一つの検出モデルへの入力として用いる可能性も否定できず、種別に応じた複数の検出モデルがあることを証明するのは困難である。

(4)教師データの生成の仕方に特徴がある発明

・メール解析サーバ
具体的に返信メールかどうかを判定するロジックとして、本文に受信メールの一部を含むか否かを判定していることを突き止めるのは難しい。
これは AI 特有のの問題というより、ソフトウェア関連発明と同じ問題である。

権利行使の可能性の高いもの、低いもの

(1)権利行使できる可能性が高いもの
・AI の単なる適用の類型は、AIを利用していることがわかれば権利行使できる可能性高い
・出力データに代特徴があり、そのデータがユーザーの目に見える形で提供される発明
・入力データに特徴がある発明で、入力データをユーザーに入力させるようなシステムであれば把握できる。

(2)権利行使が困難なもの
・前処理が必要な発明は、前処理を行っているかどうか不明であることが多いので権利行使できる可能性は低い
・モデルの形に特徴がある発明や教師データの作り方に特徴のある発明は、システム内部に特徴があり侵害を主張することはかなり難しい

今後の権利行使への示唆

「要約」

新しいサービスの提供を目的とする場合、提供内容である出力データは外部から見る必要がある。
また AI を利用することで経験に基づいていたことを客観的な支援情報として提供することが出来れば価値のあることである。

以上のことから、AI を利用することによって
・これまでになかったサービスを提供すること
・暗黙知を客観的なデータとして提供すること
というのが、権利行使可能な AI 関連特許のパターンと考える

なお上記の検討で外部から確認するのが困難となった場合でも、
例えば製品説明で、内部構成について言及しているといった個別の事情によっては該当していると言えることがある。

また、外部から確認できない処理部分が自社製品の訴求ポイントになる場合、
自社製品ではその処理部分を表示するシステムという構成にし、その表示ができることを売りとすれば、特許によってその表示をさせることが他社においては制限され、有利なポジションをとれる。

感想

・AI 関連発明の7つの類型について、
類型が大変綺麗に整理されており、勉強になりました。
AI の単なる適用について、こういった場合は特許にならないと考えていました。しかし、やはり引例がなければ特許になるというのが少し残念ですね。
裏を返すと、出願人という立場においてはそこをうまく見つけることがポイントかなと思います。

・権利行使の可能性について
AI を使っていることについて明らかな証拠がなくても、外部の観察できる動きから推定できればよいというのが気づきでした。
やはりモデルの形の特徴であったり、データの生成の仕方の特徴というのは、やはり外部からでは推定は難しいと思いました。

・今後の示唆について
普通であれば権利行使できない場合であっても、あえて商品として内部処理を表示させることによって、商品としての性能で他者に対しての優位に持っていく。
これは知財戦略と事業戦略との一体によって実現できることかなと思います。そういった部門を越えた連携が大事だなと思いました。


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